precious in my…


卒業シーズンですね。

なので、便乗してみました。(え?)



さかのぼること約2年前、桃が丘卒業直前の二人のお話です。

意外な「あの人」を主人公にしてみました。


precious in my…










僕はずっと見つめていたんだ。


君を、君たちを、君たちの物語を。





僕はもう、歌えない。






君に出会って、僕は生まれてきた意味を知ったよ。



二人に出会って、僕は音の魔法を覚えた。



毎日毎日、しゃべって、食べて、寝て…


そのどんな瞬間でも途切れることのない旋律。



それがなんだかわかる?




二人でむくれて背を向けることもあったけど、



僕が歌うとすぐ仲直り。




すごく幸せな、僕らの音楽。




でも、それは永遠じゃないって、

いつかは終わってしまうんじゃないかって不安だった。





そして、僕は一人になった。






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あいつを連れて、パリへ行くと決めた。



母さんからウィーンはダメになったと知らされてがっかりはしたけど、

正直、パリへ行くのは嫌じゃなかった。



これからまた、長い、気の遠くなるような日々が待っているのだろう。


一つ、一つ乗り越えていけるだろうか。




あいつと一緒に。








「部屋を引き払いたい?!」


「はい。家賃もったいなくて…」




解約したって、行き先は一つだろう。




「おまえ、甘えんじゃねぇよ。自分のことは自分で何とかしろ。」



卒業式まで、3週間。


コンセルヴァトワールの入学試験が終わったにもかかわらず、

あいかわらず、あいつはこの部屋でピアノを弾いている。



「で、でも~・・・ダメですかネ?」


「ふざけんな。」



俺がお前に、何の義理があるって言うんだ。




「・・・・・・・そうですよネ。のだめが甘かったデス。」



のだめはそう答えると、珍しく素直に自分の部屋へ帰って行った。




これでいい。




淋しそうなあいつの背中を見送り、少しは心が痛むけど。




真一は箱からタバコを1本取り出し、火をつける。


こういう時に限って、自分で吐き出した煙が目に沁みた。




痛ぇし。




真一はぼやける景色に嫌気が差す。




この部屋も、早く解約しないと。





壁越しに聞こえる、ピアノの音色。


ベランダで一服する時は、たいてい彼女の音が聴きたくなった時だった。


うまくいかないことなんて、ありすぎて数え切れない。

苛立つし、情けないし、惨めな気持ちで苦しくなる。


そんな時でも、隣からピアノの奏でるメロディーが聴こえると不思議と安らぐ。

焦った気持ちに酸素が行き渡って、呼吸が楽になった。



なんで、俺が何から何まであいつの面倒を見なきゃいけない。



そう思いながらも、あのピアノの音が聴こえないとどうも落ち着かない自分がいる。



別に、あいつがこの部屋に入り浸るのは今に始まったことじゃないし。



今更、しばらく住ませてくれと言われたからって別に断る理由も無いのかもしれない。




じゃあ、俺は何が不満なんだ?





考え込んでいるうちに、どんどん部屋中が煙たくなる。




苦しい。




真一は咳き込んだ。







僕のご主人様は男の人。


たまに来るお客さんが「ちあき」とか「せんぱい」とか呼ぶから、きっとそんな名前なんだと思う。




いつになく元気が無い。

今日は一人なんだね。



落ち込んでるの?



立ったり、座ったり、頭を抱えたり・・・

何かあるなら僕に話してくれてもいいんだけど。



今夜はもう僕と歌わない?


あれ、どこへ行くの?











ピンポーン。





"はーい。いますヨ~。"


「あ、俺だけど。」


"先輩!どうかしましたか?"


「………………。」



"淋しいなら淋しいって、素直に言わなきゃダメですヨ?"


「うるせー!!!!」





彼女が、帰って来た。





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あの日、いつもは寝坊ばかりしているのに珍しく早起きして、二人で僕のところへ来たから

僕は、それが僕らの「最後の時間」だと悟った。



行ってしまうの?



僕は聞いてみた。



今日でお別れデス。



と君が答える。


漆黒に輝く蓋を開ければ、君の指が僕の白い鍵盤の上を踊りはじめた。



僕は踊りにあわせて歌ってみた。



ご主人さまも隣で弾きはじめて、最後のトリオ。



「卒業コンチェルトですネ。」

「結局卒業できなかったけどな。」

「むきゃ。でもいいんです。これは卒業じゃなくて旅立ちの歌ですカラ。」



そういうと、4本の手と20本の指が美しい・・・でも、哀しい歌を奏で始めた。


もう、お別れだね。


そう思うと、胸が苦しくて苦しくて張り裂けそうだった。



「先輩。」

「ん?」




「ピアノが、泣いてマス。」




二人の手が止まって、沈黙に呑まれる。



永遠なんて、無い。


止まらない時の流れに漂うだけ。



それでも、思い出の数だけ明日に向かう歩幅は大きくなるだろう。





真一は右手でのだめの肩を抱いて、引き寄せた。




「旅立ちの歌なんだろ?ピアノも最後は笑顔で見送ってくれるよ。」


「そう、デスね・・・」




この歌が終わったら、二人はもう行ってしまうんだね。



僕は忘れないよ。





二人も、忘れないでいてくれるよね?





どんな瞬間でも途切れることのない旋律。




それは、二人の鼓動、二人のメロディー。


                                               fine
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あのピアノ、今は他の誰かが弾いているんですかネェ?

すごく思い出の詰まった品なんじゃないでしょうか。

桃が丘の卒業式の話、大好きです。

ええ話だっぺや~


Ricco
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by poppo1120 | 2006-02-27 14:36 | SS
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