激しめの松田が好きです。
変な意味じゃないです。 そんな松田が気になる方は、 「blood pressure」を、どぞっ。 ↓ 鳴り響く銃声。 人民たちの怒りの声。 ジャン・シベリウス 交響詩《フィンランディア》 パリ・ルーセル管弦楽団。 松田は昨年に引き続き客演の依頼を受け、ここ、パリに来ていた。 しなやかな手首、 水面を撫でるかのように細やかな指先。 タクトが空中になめらかな弧を描けば、 音符一つ一つが重なり合い、溶け合う。 奮い立つ人民の想いが、一つになる。 勝利のフィナーレ。 抑圧された心を解放する、人民たちの歌。 松田は、まるでエクスタシーのような、いや、それよりもさらに甘美な快感に身を委ねる。 "七つの海越えひびけ はるかの国の人へ ふるさとの野に歌える 私の希望こそ 世界のすみまで同じ 平和へのうたごえ" 完璧だ。 松田は、そう思った。 *********************************************************** 千秋は、公演が終わると早々と劇場を後にする。 今日は、楽屋へは寄らないでおこう・・・・・・ 千秋の脳裏には、前回の悪夢がよみがえっていた。 地下鉄4号線に乗り換え、行きつけのカフェで足を止めた。 すごく、タバコが吸いたい気分だった。 松田の《フィンランディア》。 冒頭、金管の苦悩の叫びを聴いて、体が震えた。 底なしのように深く、重い。 その痛み、抑圧された心が開放されたがる。 魅了されるとか、酔わされるとかじゃない。 完璧に、体ごと曲の物語に引きずり込まれる。 松田の指揮は、それほど観客を巻き込んでいた。 松田といい、シュトレーゼマンといい・・・・・・・ まったく、俺はどれだけ走れば追いつけるのか。 揺らぐタバコの煙が、千秋の心を燻らせていた。 「Je m'excuser,monsieur.」 と、店員の声。 悶々としていたら、とっくにカフェの閉店時間は過ぎていた。 月明かりが見える。 一体、今何時なのか。 追い出されるようにレジに立ったとき、電話が鳴っていることに気がつく。 「松田だけど。」 電話の相手は、松田だった。 「君、なんで楽屋に挨拶しに来なかったんだよ。」 面倒に巻き込まれたくなかったからだ。 「・・・すみませんでした。」 「とにかく・・・あ、おまえ今どこ?」 「サンジェルマンですけど。」 答えた後で、しまった、と思ったが遅かった。 「わかった。じゃ、今から行くから待ってろ。」 エリーザベトはどうした。 逃げられたのか? もう、夜の10時を過ぎていた。 二度と松田を部屋には上げないと、心に誓っている。 「・・・ちゃんと待ってますから、飲むのはほどほどにして下さい。」 どこか、店を予約しておこう。 千秋は電話を切った後、レジの店員に 「この辺で飲めるところを。」 と聞いておくことにした。 ********************************************************** サンジェルマン・デ・プレ教会の目の前。 レ・ドゥ・マゴ。 松田はワインを頼み、店員の女性に親しげに声をかける。 「聴いただろ、俺のフィンランディア。」 「はい・・・松田さん、相変わらずなようで。」 千秋は、褒め言葉かどうか分からない微妙な返答をした。 「おまえの方こそ、相変わらず、なんだろ。」 松田の物言いにはいつも棘がある。 店内は薄暗くて、少し湿っぽい気がした。 「君、オケと心を一つに・・・・・・とか考えてるんじゃないの?」 「はぁ・・・・・・」 心を一つに。 そんなことできたら、どんなに良いか。 千秋とマルレ・オケ。 松田の言うとおり、相変わらずだった。 「そんなの無理だから、諦めろよ。」 松田はそういうと、ワインとチーズを追加する。 「音を鳴らすのも、所詮人間。人間皆他人同士だろ。」 松田が何を言いたいのか、分からない。 それでも、話しの続きを聞いているしかなかった。 「音だけじゃ、楽譜の物語全てを表現できたことにはならない。人間が、言葉だけじゃ他人に全てを伝えられないのと同じように。」 この前女に振られておいて、今更何を言う。 音だけでは、言葉だけでは伝えられない・・・・・・・ そのほかの術など、知らないのに。 「言いたいことが良く分からないんですけど。」 「おまえは、理性、理性で人生渡り歩いてきたタイプだろ?」 そんなつもりはないが、そうかもしれないとも思う。 「じゃあ、抑圧されてきた感情はどこに行く?」 何処に。 何処に仕舞いこんでしまったのか。 「前に言っただろ。『音楽も女も同じ』ってな。自分が曝け出せなきゃ、相手の素顔も拝めないってことだよ。」 同じ、なのか?本当に。 「お前、誰かに一度、ザックリ傷つけてもらったらどうだ?そうしたらきっと、自分の何もかも曝け出せるようになる。」 「松田さん・・・・・・飲みすぎてるんじゃないですか。」 俺と、マルレとの壁。 俺と、あいつとの壁? 考えるだけ、無駄かもしれない。 だけど、考えることから逃げたら、壁は崩せない。 一人で歩けなくなった松田を無理矢理タクシーに押し込んで、千秋は徒歩で帰ることにした。 アパルトマンまでは、すぐ。 千秋は煮え切らない想いを、ため息と一緒に飲み込む。 風呂入って、寝よう。 あいつはまだ起きているだろうか。 薄い望みに賭けてみる。 fine *********************************************************** 松田、過激発言? 言い返せない千秋、ヘタレ? 関係ないですが、Riccoのつけるタイトルは、物語と関連しているわけではない場合が多いかもしれません。 イメージでつけてます。お読みになった方で、結局タイトルなんだったんだっぺ?と疑問を抱かれた方は、是非、Riccoがどんなイメージでタイトルを考えているのか予想してみてください。 Ricco
by poppo1120
| 2006-02-16 21:42
| SS
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