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blood pressure

激しめの松田が好きです。

変な意味じゃないです。


そんな松田が気になる方は、
「blood pressure」を、どぞっ。





鳴り響く銃声。


人民たちの怒りの声。



ジャン・シベリウス 交響詩《フィンランディア》




パリ・ルーセル管弦楽団。

松田は昨年に引き続き客演の依頼を受け、ここ、パリに来ていた。




しなやかな手首、

水面を撫でるかのように細やかな指先。


タクトが空中になめらかな弧を描けば、

音符一つ一つが重なり合い、溶け合う。



奮い立つ人民の想いが、一つになる。

勝利のフィナーレ。



抑圧された心を解放する、人民たちの歌。



松田は、まるでエクスタシーのような、いや、それよりもさらに甘美な快感に身を委ねる。



    "七つの海越えひびけ

     はるかの国の人へ

     ふるさとの野に歌える

     私の希望こそ

    世界のすみまで同じ

     平和へのうたごえ"





完璧だ。

松田は、そう思った。


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千秋は、公演が終わると早々と劇場を後にする。


今日は、楽屋へは寄らないでおこう・・・・・・



千秋の脳裏には、前回の悪夢がよみがえっていた。




地下鉄4号線に乗り換え、行きつけのカフェで足を止めた。


すごく、タバコが吸いたい気分だった。



松田の《フィンランディア》。



冒頭、金管の苦悩の叫びを聴いて、体が震えた。

底なしのように深く、重い。




その痛み、抑圧された心が開放されたがる。


魅了されるとか、酔わされるとかじゃない。


完璧に、体ごと曲の物語に引きずり込まれる。

松田の指揮は、それほど観客を巻き込んでいた。



松田といい、シュトレーゼマンといい・・・・・・・

まったく、俺はどれだけ走れば追いつけるのか。



揺らぐタバコの煙が、千秋の心を燻らせていた。




「Je m'excuser,monsieur.」

と、店員の声。

悶々としていたら、とっくにカフェの閉店時間は過ぎていた。


月明かりが見える。

一体、今何時なのか。


追い出されるようにレジに立ったとき、電話が鳴っていることに気がつく。




「松田だけど。」

電話の相手は、松田だった。


「君、なんで楽屋に挨拶しに来なかったんだよ。」

面倒に巻き込まれたくなかったからだ。


「・・・すみませんでした。」

「とにかく・・・あ、おまえ今どこ?」

「サンジェルマンですけど。」

答えた後で、しまった、と思ったが遅かった。



「わかった。じゃ、今から行くから待ってろ。」



エリーザベトはどうした。

逃げられたのか?


もう、夜の10時を過ぎていた。

二度と松田を部屋には上げないと、心に誓っている。


「・・・ちゃんと待ってますから、飲むのはほどほどにして下さい。」

どこか、店を予約しておこう。



千秋は電話を切った後、レジの店員に

「この辺で飲めるところを。」

と聞いておくことにした。





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サンジェルマン・デ・プレ教会の目の前。

レ・ドゥ・マゴ。


松田はワインを頼み、店員の女性に親しげに声をかける。



「聴いただろ、俺のフィンランディア。」

「はい・・・松田さん、相変わらずなようで。」


千秋は、褒め言葉かどうか分からない微妙な返答をした。


「おまえの方こそ、相変わらず、なんだろ。」

松田の物言いにはいつも棘がある。


店内は薄暗くて、少し湿っぽい気がした。



「君、オケと心を一つに・・・・・・とか考えてるんじゃないの?」

「はぁ・・・・・・」


心を一つに。

そんなことできたら、どんなに良いか。


千秋とマルレ・オケ。

松田の言うとおり、相変わらずだった。



「そんなの無理だから、諦めろよ。」

松田はそういうと、ワインとチーズを追加する。


「音を鳴らすのも、所詮人間。人間皆他人同士だろ。」


松田が何を言いたいのか、分からない。

それでも、話しの続きを聞いているしかなかった。



「音だけじゃ、楽譜の物語全てを表現できたことにはならない。人間が、言葉だけじゃ他人に全てを伝えられないのと同じように。」

この前女に振られておいて、今更何を言う。



音だけでは、言葉だけでは伝えられない・・・・・・・


そのほかの術など、知らないのに。



「言いたいことが良く分からないんですけど。」

「おまえは、理性、理性で人生渡り歩いてきたタイプだろ?」


そんなつもりはないが、そうかもしれないとも思う。


「じゃあ、抑圧されてきた感情はどこに行く?」



何処に。


何処に仕舞いこんでしまったのか。




「前に言っただろ。『音楽も女も同じ』ってな。自分が曝け出せなきゃ、相手の素顔も拝めないってことだよ。」



同じ、なのか?本当に。




「お前、誰かに一度、ザックリ傷つけてもらったらどうだ?そうしたらきっと、自分の何もかも曝け出せるようになる。」

「松田さん・・・・・・飲みすぎてるんじゃないですか。」



俺と、マルレとの壁。



俺と、あいつとの壁?





考えるだけ、無駄かもしれない。

だけど、考えることから逃げたら、壁は崩せない。




一人で歩けなくなった松田を無理矢理タクシーに押し込んで、千秋は徒歩で帰ることにした。

アパルトマンまでは、すぐ。




千秋は煮え切らない想いを、ため息と一緒に飲み込む。



風呂入って、寝よう。




あいつはまだ起きているだろうか。




薄い望みに賭けてみる。




                                                    fine
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松田、過激発言?

言い返せない千秋、ヘタレ?


関係ないですが、Riccoのつけるタイトルは、物語と関連しているわけではない場合が多いかもしれません。
イメージでつけてます。お読みになった方で、結局タイトルなんだったんだっぺ?と疑問を抱かれた方は、是非、Riccoがどんなイメージでタイトルを考えているのか予想してみてください。

Ricco
by poppo1120 | 2006-02-16 21:42 | SS
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