緋色さん、「神秘の詩」5万hit記念に贈ります。おめでと~!! そして、色々ご迷惑おかけしました~m(--)m それでは、「with you ~a time capsule~」始まります。 ↓ ==================================================== To;真一君 この手紙を読む頃には、お互いどんな毎日を過ごしていマスかね? のだめは・・・今まで真一君から数え切れないほどの幸せを貰いました。 その幸せを一つ一つ、思い出しながらこの手紙を書いていマス。 ほんとに・・・・・・・感謝したくても言葉になりまセン。 この手紙は、のだめにとって新たな決意が込められていますヨ。むんっ!! 昨日まで貰った幸せの分・・・今日からはのだめが真一君に幸せをあげマス。 だから、のだめより早死にしないでくだサイ。 幸せを全部、その手に渡せる時まで。約束ですヨ?? From;のだめ ==================================================== 「掘るもの、見つかりませんネェ~」 「当たり前だ。普通、来る前に準備しとくだろ。」 ラ岬から吹き上げる風が、二人の間を通り抜ける。 空と海とを微かながら、しかし、しっかりと隔てている水平線が見渡せるこの丘。 水平線が無ければ、きっとこの空と海は溶け合ってしまうだろう。 それほどに、空も海も、青い。 「じゃあ、のだめのこの手で・・・」 のだめは真一に両手を見せる。 「・・・頼むから、素手で掘るのだけはやめてくれ。」 こぼれ落ちそうな夢の雫を拾い集めてくれた、その両手。 汚れたのを見たくない。 真一は、腰に両手を当てながら長いため息をつく。 のだめは、雑草と蟻以外何もないこの丘をそこら中見渡しながら、 「あ、あたっ!!先輩、これで掘りまショ!!!」 と、何本かの小枝を拾い上げた。 なんの木の枝だろう。 箸くらいの太さしかないこの枝で、一体どれくらい掘れるのかわからない。 ほんとにやるのか? のだめにそんなことを聞く余地も無かった。 かがんで地べたをつつきだすのだめのワンピースの裾は、すでに土色に変わっている。 諦めた真一はのだめの向かい側にかがんで、素手で土を掘り出す。 のだめには、素手はだめだと言ったのに。 そんなことを真一に言い返している暇は無かった。 二人の姿はまるで、公園の砂場でお城を作る子どもの様にも見える。 頭上を往来するカモメの集団にも、まったく気がつかない。 あまりにも真剣なのだめの顔を見て、真一は聞こえないように小さく笑った。 土いじりなんて、やったことあったっけ? 真一は、幼かった頃の自分を思い返すが、こんなに土で真っ黒になった自分の手を初めてみる。 いつもこの手に持っていたのは、スコップではなく、ヴァイオリンだった。 「よし、これくらいでどうですかネ?」 のだめの額には、汗が滴る。 「穴、浅過ぎないか?」 真一の首筋にも、光るものが流れた。 「大丈夫ですヨ。あまり大きくないデスから!」 のだめはそう答えると、鞄から小さなアルミ缶を取り出す。 空があまりにも青いから、吸い込まれそうになる。 「で、先輩。何を入れるんデスか??」 「その前に、お前はどうするんだよ。」 そう聞かれたのだめは、ワンピースのポケットから黄色の封筒を取り出す。 「のだめは、コレです。」 そう言いながら、アルミ缶の中に封筒を入れる。 真一は黙ってアルミ缶を受け取る。 土色になった手で受け取るから、アルミ缶は少し汚れた。 もう片方の手で、いつの間にか脱いだ黒のジャケットを拾い上げると、その内ポケットから見覚えのあるものを取り出す。 「真一君・・・・・・それ。」 あの日の、懐中時計。 「フランスに持ってきていたんデスか?」 驚いたのだめの顔を見ながら、真一は答える。 「ずっと、持ち歩いてたけど。」 平然と答える真一を見て、のだめは余計目を丸くする。 「埋めちゃって、いいンですか?それ。」 真一は目を閉じる。 この時計に刻まれた、あの日の記憶。 「いいんだ。手元を離れても、この時計は立ち止まらずに俺たちの時間を刻み続けてくれるよ、きっと。」 そう言って瞼を開けると、汚れたアルミ缶に懐中時計を入れた。 「そデスね。きっとこの時計は止まりまセン。」 のだめは真一に蓋を渡す。 二人の指先が、軽く触れ合った。 「のだめ、何か目印になる石を探してきマス!!」 そういって駆け出すのだめの背中を見送りながら、真一はポケットからもう一つ何かを取り出して、のだめに見つからないように缶に入れて、蓋を閉める。 息を切らして帰って来たのだめと、アルミ缶を埋めた。 缶に被せた土はやわらかくて、温かくて、その感触が真一には気持ち良かった。 「いつ、掘り返しに来ましょうかネ?」 「埋めた直後から、掘り返す話かよ。」 「え~だって、楽しみじゃないデスか。宝箱を開けるみたいで。」 宝箱。 「・・・・・・・そうだな。俺たちがまた、新しい時間の針を動かしたくなった時にまた来よう。」 そう言って真一は、彼女と、彼女との思い出を抱きしめる。 一つに重なりあう影を、ただ太陽だけが見ていた。 *********************************************************** フランス・ブルターニュ。 久々のオフ、せわしないパリを離れて、田舎の方に出かけたくなった。 マルレの定期公演のことを考えると、気が沈む。 落ち込みだすと、あの時のボレロのリズムが延々と耳奥に鳴り響いて、どうしようもない気分に陥る。 思考の螺旋。 考えはぐるぐると廻って、同じところに辿り着く。 答えなんて、無い。 ただ分かるのは、逃げ道なんて存在しないということだけ。 重い腰を上げて、のだめに声をかける。 「出掛けよう。」 モン・サン・ミッシェル。 世界遺産と陸をつなぐ一本道沿いに建つホテルに、運良く予約が取れた。 シーズンを終えた観光地は閑散とし、真一にはちょうど良かった。 のだめは 「クレープ、クレープ♪」 と自作の歌を披露しながら、真一の背中に続く。 こういう時、こいつは何も聞かないんだよな。 のだめは、真一が急に出掛けたいといっても理由を聞かない。 詮索しないというか、興味が無いというか、とにかく真一にとっては都合が良いのかもしれない。 モン・サン・ミシェルは大修道院。 その姿はまるで地上に降りた天空の城そのものにも思える。 聖地を訪ねても、のだめの関心はもっぱら土産もの屋やレストランだった。 ふと、のだめの視線が土産物屋にあるポストカードに留まった。 「真一君、タイムカプセルしませんか?」 突然、何を言い出すかと思えば。 「なに、それ。」 「ぼへっ!!真一君、どんなしらけた子ども時代を過ごしてきたんですか?」 うるさい。 「まぁ、とにかく・・・あ、おじさん。これ二枚ください!!」 結局、買うのか。 「ホテルに戻ったら、教えてあげますヨ。」 *********************************************************** ホテルはツインで、のだめはがっかりした。 「しょうがないだろ。急に予約入れたんだし。」 のだめは渋々頷くと、昼間買ったポストカードをベッドの上に2枚、並べた。 「のだめ、小学生の時タイムカプセル埋めるのが流行って・・・」 のだめは続ける。 「のだめはハマリすぎて何十個も埋めたんデス。」 埋める?何を? 「真一君、今『何を埋めるんだ?』とか考えてましたネ?」 悪かったな。 「自分の宝物とか、未来の自分宛てに書いた手紙とかを箱に詰めて、埋めるんデス。」 「ふーん。埋めてどうするんだ?」 寝転ぶのだめの隣に腰掛けて、ポストカードを手に取る。 「10年後とか、時間を決めて掘り返しに行く約束をするんデス。でものだめ、埋めすぎて分からなくなちゃって、そしたらいつの間にか忘れて・・・」 のだめらしいな。 「掘り返すの、すごく楽しみにしているはずなのに、今考えると惜しい気がしマス。」 「どーせ、ごろ太とか入れたんだろ。」 「宝物は、宝物デス!!」 思い出を閉じ込めて、それからどうする? 枕もとのランプが、二人の顔をオレンジ色に染める。 「真一君は、未来ののだめに手紙を書いてくだサイね。」 「何で俺まで・・・」 「真一君の、子ども時代を取り戻すために!!」 いいよ、別に。 そう言おうとしたが、のだめは聞く気がなさそうだったからやめた。 のだめはすぐにポストカードに何かを書き込み始めたが、どこか夢心地にまどろみ始める。 「風呂くらい入って、寝れば?」 どうせ、俺の言葉は届いてないだろう。 すぐに寝息が聞こえる。 うつ伏せ・・・窒息するぞ。 汚れたワンピースのまま夢路に入るのだめの体を抱えて、仰向けに戻す。 タイムカプセル・・・・・・ 俺の、何を。 俺の、どんな想いを詰めればいい? のだめの頬に触れて、考える。 もう一度、ポストカードを手にとって、デスクへ向かった。 楽譜以外に、ペンを持って向かうのはいつ以来だろう。 俺の止まっていた時間の針を、もう一度動かしてくれた大切なもの。 いつもポケットにしまってある。 針の動きを目で追うと、今、確かに俺の時間は未来に向かって動いていると気づかされる。 ==================================================== のだめへ あー・・・・・・・。こういうとき、普通、何書くんだ? まぁ、いいか。 ・・・しっかり飯食ってるか?ちゃんと部屋、綺麗にしているだろうな? ピアノは、相変わらず弾いているのか? ・・・・・・そうだな、考えれば、今まで俺はお前に"ちゃんと"とか、"しっかり"とか言い過ぎてた。 ごめん。 これから先、ずっと変わらないお前でいてくれれば良いと思う。 それだけ。 真一 ==================================================== 夜はいつでも、明日来る朝のために更けていく。 *********************************************************** "マーマ" 「何デスか?ネネちゃん、今日は甘えんぼさんですネ~」 差し伸べられる、温かい手。 「ほら、おいで。」 "パァ・・・パ" 「寧音、それ、しっかり持ってろよ。大事なものだからな。」 「大丈夫デス!!のだめの子だから!!!落としたりしませんヨ~」 「バーカ・・・・・・・俺の子だ。」 ブルターニュの丘。 太陽は、新たに3つの影を見つける。 fine *********************************************************** なんだか、甘くないね。だめだ、私。私が甘い話とか狙っちゃだめでした。 千秋とのだめ、この先も幸せを分かち合っていって欲しいです。 Ricco
by poppo1120
| 2006-02-15 20:59
| 捧げものSS
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