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アネモネ

3話連続の第2話「アネモネ」です。

このお話は、先日書いた「Sign」という話とリンクしていまして、詳しく知りたい方はSignから読んでいただけると分かりやすいと思いますので良かったらどうぞ。

もちろん、こちら「アネモネ」だけでも内容は分かるようになっています。

Signからお読みになりたい場合はこちらから


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アネモネはこちらから




" よっ!親友!!

 元気でやってるか?

 3月に子どもが生まれたよ。"春姫"って名前にした。

 清良が、古風すぎないか?とはじめ俺のネーミングに渋っていたけど、自分の名前の方が十分古風じゃんと言っておいた。


 顔は・・・・・・ま、俺に似て美人??お前、手ぇ出すンじゃねぇぞ。


 それじゃ、近々また会おうぜ。
                                  10 April 2006
                                    みんなの峰より "






イタリアでの結婚式は8月。



その時清良のお腹には、新しい命が宿っていた。

龍が純白のウエディングドレスの上から、何度も二人の愛の果実に話しかけるものだから、周りにいたオーディエンスは呆れながらも、祝福としての笑顔を贈った。


チャーチから出てきた花嫁は、真っ赤なブーケを真剣に見つめた後、本日1番の笑顔でオーディエンスに向かってブーケを投げた。




この幸せが、みんなにも届きますように。





赤い花束はトスカーナの空の青さとは対照的で、太陽の光を浴びながらいっそう情熱的な色を際立たせていた。





「・・・・・・来ましたヨ!!!!」





のだめは、その大きな手のひらをいっぱいに広げながら、幸せのブーケをキャッチしようと試みる。

すると、


「ちょっと待った!!そのブーケは渡さないわよ~!!!」


と、殺気立った声に呆気にとられたのだめは、ブーケを受け取り損ねた。


真澄である。



足元に落ちた赤いブーケを、我が先にと互いに手を延ばした瞬間、


「ブーケは僕のものだ~!!!」


と高橋のスライディング。



高橋の執念だろう。

強烈なスライディングアタックにブーケのリボンはちぎれ、花々は無残にも地面に散らばった。



「ああぁ~・・・・・・・」


3人はがっかり、と肩を落とす。

清良は1段上から、白い目で3人を見下ろしている。




赤い花は、足元に散らばってもなお、嬉しそうに咲いていた。




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「この花瓶、何?」


千秋は、窓辺の透明な花瓶を見て聞く。



「それデスか?近くのガラス工房で買ったんですヨー♪」


のだめは答える。



「そうじゃなくて、花、生けて無いじゃん。からっぽ。」

「う、それがデスね・・・・・」





龍と清良の結婚式の招待状が届いた7月、のだめは花嫁のブーケは絶対に自分がキャッチすると心に決めていた。



通りがかったセーヌ川沿いにある小さなガラス工房。


何度も、何日も、そのショーケースに飾られた透明な花瓶に目を光らせては、迷った末に買わない日々が続いていた。




幸せのブーケ。



この花瓶に生けたら、どんなにキレイだろう。




色々な想いを、めぐらせる。






ついに、のだめは花瓶を買った。

花瓶を窓際に飾っては、手に取って見たり、ただ眺めていたり、指で輪郭をなぞったり・・・・・・・・


二人の結婚、本当にウレシイ。

赤ちゃんが生まれるなんて、もっともっとウレシイ。


そんな想いを花瓶に映しながら、キレイなブーケが飾られる日を待っていた。





結局、花瓶に花が飾られる日は来なかった。





あの日、ばらばらになった花たちを、みんなで風に乗せて飛ばした。

風に踊る花びらは、まるで赤い妖精のようにも見えて、とても綺麗だった。



ひら、ひら、ひら。




この幸せは誰の元へ。





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初めてのオペレッタ。



本当ならパリ公演が良かったが、あいにく場所はウィーンだった。


タクトを一閃して幕が上がると、あの有名な序曲が高らかに会場を盛り立てる。



ヨハン・シュトラウスⅡ世、オペレッタ《こうもり》




《こうもり》はのだめと観に行ったことがある。


第二幕、裕福な銀行家アイゼンシュタインが仮面舞踏会で、妻のロザリンデとは知らず伯爵夫人と名乗るその仮面の女性を口説こうと必死になる。



ユーモラスで、それでいて音楽がまた一段と楽しいこのオペレッタにのだめは大笑い。

千秋も思わず吹き出したものだ。




千秋は第三幕を振り終えると、そんなことを思い出していた。




拍手と歓声がこだまする劇場。

本当なら、この快感にも似た余韻にいつまでも浸っていたかったが、今夜はシュトレーゼマンからお呼びがかかっている。




だから、ウィーンは嫌なんだ。




そう、心の中でつぶやいた。






「・・・・・・・・チアキ、次の公演、分かってマスね?」


ホテルに到着してすぐ、千秋は最上階のバーに案内された。


「はい。分かっています。」


千秋はウィスキーのシングルをロックで頼んだが、飲みたい感じはしなかった。




「ワタシは、この時のために千秋を弟子にしたのかもしれない。ワタシの願いをかなえるために。」


「感謝・・・・・・しています。でも、これは終わりじゃなく、始まりなのかもしれません。」





千秋はそう答えると、


「言いたいことはもう終わりでしょう?帰ります。」


と、脱いだばかりのジャケットをまた羽織って、足早に店を出る。






「・・・・・・そう、それで良いんデス。」

シュトレーゼマンは冷えた熱燗をおちょこに注ぎながら、千秋の背中を見送った。







自分の宿泊するホテルまでのタクシー。

運転手は無愛想で、これといって会話もない。





タクシーの窓越しに華やかなウィーンの夜が映る。




きら、きら、きら。





千秋はあの透明な花瓶のことを思い出していた。












" PS;
  
  そうそう、チケットThanks !!
  
  赤ん坊がいるかもって、家族席にしてくれたんだって?

  しっかし、のだめ本当に大丈夫か~?!

  ・・・・・・ま、お前が振るなら何とかなんだろ。

  大事なソリスト、支えられるのは千秋しかいないって知ってるぜ!!!! "







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はい、あまりオチがありません。

次回は第三話「シナモン」です。


連載っぽく見せかけて、各話の関連性はきわめて薄い??

いやいや、次回でまとまるはず!!(えっ?)


それでは、ここまで読んでくださり感謝。



Ricco
by poppo1120 | 2006-02-10 20:47 | SS連載
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