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もう二度と~Love you,love me~

お題SSです。

ひたすら悶々とした真一が書きたくなりました。

真一が始めて愛という感情を知ったのはいつだろう?と考えながら書きました。

それでは、『もう二度と~Love you,love me~』です。






"牧人 羊を 守れるその宵


妙なる歌は 天より響きぬ"





マッチを擦った後の残り香が部屋に充満して、思わずむせた。



のだめはキャンドルに灯る光をその瞳に映しながら、



「Joyeux Noël・・・」



と誰に言うでもなく呟いた。




夜の闇と赤色とのグラデーションが、のだめの息遣いに合わせてゆらゆら揺れる。




キャンドルの炎は暖かくて綺麗で触れたくなるが、近寄りすぎると火傷する。


けれど、一度その燈に身を焦がせばその痛みさえわからなくなるのだろうか。




「飯、食うか。」


ノエルらしいとはとてもいえない殺風景な食卓を、二人で囲む。






"近づいたと思えば離れていく"






どうして傷つけてしまうのだろう?



たった一つ分かるのは、原因が自分にあるということだけ。




優しくするだけなら簡単なのに、思いやりと甘やかしを区別しようとすると困難だ。



その不均衡なバランスにふらふら足場を見失いそうになる。




「今夜はアパルトマンも静かですネ。」


のだめがワイングラス越しにこちらを覗いている。


見つめ返したら、その頬がワイン色に紅く染まっているように見えた。



「みんな家族でミサに出かけてるんだろ。」


賛美歌に包まれるパリの夜。



手を繋いで、寄り添って。




粉雪は人々の体温に溶かされる。





結局ツリーの飾りは不十分で、なんだか物足りないさに淋しげなもみの木がひっそりと二人を見下ろしていた。





楽しそうに笑う彼女の瞳がとても澄んでいて、視線が離せなくなる。


長いまつげの影が白い肌に重なって、とても綺麗だと思った。




「ふふ。初めて一緒に過ごしたクリスマス、覚えていますか?」


そう言って相変わらず優しく笑いかけるから、フォークを握る手が硬直してしまう。




マリアの微笑。




「さぁ・・・覚えてないな。」



懸命に理性を取り戻して返した答えは真実ではないと、すぐに暴かれてしまうのだろう。



「覚えてるくせに。まぁいいです。」



ピンク色に熱を帯びる彼女の唇が、さらに続ける。



「・・・・・・・・・また一緒に過ごせて、うれしいですヨ?」






全てを見透かしたようなのだめの視線が、この胸を鋭くえぐる。



必死に高鳴る心臓の音を隠そうと試みる。




聖なる夜に響くは、祝福の鐘。




鐘の音にこの鼓動を忍ばせてしまいたい。





揺らげ、キャンドルの炎。




燃え尽くせ、恥じらいも遠慮も邪魔なだけ。





のだめの言葉一つにうまいこと返事ができなくて沈黙する。


沈黙の裏側に、今にも暴れだしそうな想いが複雑に絡み合っては渦巻いているというのに。




こんな自分、知らなかった。


今、この瞬間まで。



たった今出逢った。




初めての感情と。




こんなに温かくて、もどかしくて、


気持ち良くて、切なくて、


柔らかくて、痛くて・・・・・・・・




言葉に、できない。






「真一君、サンタクロースはきっと来ます。」


「なに?急に。」


「心配しなくても大丈夫デス。靴下は2足用意しておきましたから!!」


「ぶっ・・・・・・靴下って・・・」


フーン!!と意気込んでみせる表情が可笑しくて、思わず笑った。




ツリーの下にさりげなく並ぶ、赤と緑の靴下。





夜はとっくに更けていて、いつの間にか日付は変わっていた。




眠たそうに瞼を擦る仕草が子どもみたいで、思わず




「良い子にして早く寝ないと、待ち人も来ないぞ。」


と冗談めいて言ってみた。



「むっ?それは困ります。のだめは元から優等生ですから問題ないとして・・・・」



おいおい、何言うつもりだ?



「真一君は今夜くらい良い子にしないと、のだめしかプレゼントもらえなくて悔しいでしょ?」



はぁ・・・・・・・・・・・・・



「おまえなぁ・・・・・・・・・・まぁいいや。先、風呂入って寝ろ。」


「はーい!!」



ぱたぱたと足音を立ててシャワールームに駆け込んでいく。


シャワーが降り注ぐ音を聞きながら、赤い靴下を手に取ってみる。




ツリーの枝に掛けたままのネックレスは、結局面と向かって渡せそうにないからサンタクロースとやらに便乗しよう。



似合うかな、とか、喜ぶかな、とか・・・・・・・・・・・・・



素直にその首にかけてあげられたらいいのに。








四六時中傍にいてくれなくてもいい。


必要なときさえ隣にいてくれたら…・・・・・・・・・



都合良すぎると思われるかも知れないけど、それでいいんだ。




だから、彼女がもしも自分を必要とするなら、何を代償にしても傍にいたい。





いっぱい傷つけて、泣かせて、そんな・・・・・・・・・・・・・・・・




そんな過ちは、もう二度と繰り返さない。










視力はいい方だけど、"運命の赤い糸"なんてものは見えたことがない。





それでも確かに結ばれている。



心、体、時間、空間、


そして音楽。



繋がれるなら、いっそ糸より鉄の鎖にして欲しい。





どんなに引き裂こうとしても決してちぎれないように、


一度絡まったら二度とほどけないように。





いつからか理性なんて忘れてしまった。


周りなんて気にしないで取り乱すし、冷静なだけじゃいられない時だってある。





そんな自分を見たくないと思う感情は、聖域に踏み込めない罪人のためらいと似ている気がする。



こんな聖なる夜にふさわしくない、無情な欲望。





窓の外を見上げると、眩しい輝きがちかちかと暗闇を照らしていた。





星。


金星か。




眠れない夜と朝のはざまに漂う。



それでも、闇に溺れることなく、朝の光に埋もれることのない輝きを放って。







"仰げば御空に 煌めく明星

夜昼明かに 輝きわたれり

喜び称えよ 主イエスは生まれぬ"








                                     fine
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真一の分の靴下には果たしてプレゼントは入っていたのでしょうか?(謎・・・)

ノエルの話、大好きです。

季節外れで済みませんでした。


Ricco
by poppo1120 | 2006-05-07 21:28 | @お題SS@
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