Beat<後編>

Beat<後編>です。

<前編>からの続きになりますので、お手数ですが前編をお読みで無い方は前編から読んでいただけると幸いです。


『Beat<前編>』を読む

<後編>はこちらから。




ピエロ。




素顔を隠した道化師。




秘密だらけの迷宮に飛び込み、



出口を探して彷徨い続ける。





"夕方になると、ピエロが噴水の前でアコーディオンを弾いているらしいんだけど・・・・・・・"


「アコーディオン?」



黒木から電話がかかってくるのは珍しい。



"とにかく、ちょっと気になることがあって、そのうわさ。一緒に観に行ってみない?"


「えっ・・・・・・・・気になるって、どういうこと?」



受話器を握る真一の手のひらが軽く汗ばむ。



"まぁ、きっと行ってみればわかると思うよ。千秋君も。"


「・・・・・・・・・・わかったよ。」


"じゃ、明日の4時頃広場前で待ち合わせで。急な誘いで悪かったかな?"


「いや、そんなことない。」





電話が切れる。



うわさ・・・・・・アコーディオン・・・・・・・一体、何なのだろう。


そもそも、黒木君が『気になる』ほどだから、きっと行って確かめた方がいいことに違いないんだろうけど。









真実を暴こうとすると、必ず天罰が下る。



そんな気がする。




ざわめく心臓、波打つ脳波。





どんな答えが待っている?














「ごめん。待った?」


夕方のコンコルド広場は寒々としていて、コートを揺らす風がひんやりと通り過ぎた。



「全然。さ、行こうか。」


黒木も両手をジャケットのポケットに入れて、寒さをしのいでいた。




地下鉄を降り、階段を昇るにつれて聴こえてくるメロディー・・・・・・


二人は互いに確認しなくとも気づいていた。



その音は広場の中心に近づくにつれて鮮明に脳裏に焼きつき、意識を捕える。





この音・・・・・・・・・・・・・




知らないはずが無かった。





噴水が空に向かって湧き溢れ、辺りは湿った空気によどんでいた。





一人のピエロと一台のアコーディオン。


ピエロの右頬にはハート、左頬にはスペードの模様が描かれ、作り物の赤い鼻が色白の顔の中心で際立って見えた。



開いては閉じる左手のモーションに合わせて、緩急の波に揺れる鍵盤の旋律。



その響きはどこか懐かしくて、物悲しくて、そして優しかった。




リズムに乗って揺れる茶色い前髪が、ピエロの帽子からちらちらと見える。


水玉のユニフォームからはみ出る細い手足は小刻みに拍子を刻む。






観客は2~3人の子どもと、一組の恋人たちだけだった。







どんな格好をして、どんな化粧をして、どんなところにいようとわかる。




その音色に触れれば。






「やっぱり・・・・・・・・」


黒木の視線はアコーディオンの動きを追う。



「・・・・・・・・うん。間違いないな。でもなんで・・・・・・・」


真一はすぐにでもその名前を呼びたかったが、公共の広場でとんでもないことをしでかす女の名を叫ぶのに躊躇した。




「うわさの話だけど、最近コンコルド広場で女性のピエロがアコーディオンを弾いているって・・・・・・・それで・・・」


「それで、その演奏は滅茶苦茶な上に、はねて跳んで転がりまわるんだろ?」


「そう。もしかして、とは思ったんだけど。」





ピエロは二人の男性のシルエットに気がつかない。



その右手が一心不乱に白い鍵盤と黒い鍵盤を駆け回るたびに、観客達は瞳をきらきらと輝かせた。





歌おう。


踊ろう。


奏でよう。


分かちあおう。




誰のために?



あなたのために。


わたしのために。



喜びの歌を。




愛の歌を。








この鼓動が導く方へ。











「ただいまデス~お腹空きました!!」


「おかえり。」



何食わぬ顔で帰ってくる彼女を、何食わぬ顔で迎える。



彩り豊かなダイニングテーブルが白い部屋で際立って見える。



かちゃかちゃとナイフとフォークがぶつかり合う音が響く。




「で。」


「・・・・・・・・はい?」


「どういうことだか説明してもらおうか。」


「何の話デスか?」




真一はのだめの瞳を覗いてみるが、いまいち視線は合わなかった。



「目、逸らしてんじゃねぇよ。」


「ぎゃぼ・・・・・・っ」




口に運ぶはずのブロッコリーがころころとフォークから逃げた。




「・・・・・・・な、なんで知ってるンですか?」





やっぱり・・・・・・・・・


どういうことか詮索してみてもしょうがないのかもしれない。




意味もなくピエロになってみたり、思いつきでアコーディオンを弾いているわけでもないだろう。




「まぁ、かくかくしかじかということでどうですかネ?」


「分かるわけねーだろ!!」




ムキになったっほうの負け、それが二人にとって暗黙のルール。




そして、いつも負けるのは俺。




勝ったためしなんて無い。




翻弄されて、振り回されて、呆気に取られて・・・・・・・



くそっ!!




いつか絶対負かしてやる。





しかし、零れるため息は降参の証かもしれない。




負かしてやりたいが、勝てる気もしない。





そう、負けはいつも決まっている。







"惚れたほうの負け"







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「ねぇ、ママ。またあのピエロが来てるよ。」




ピエロは懲りない性分だった。



あくる日もコンコルド広場の中心を占領してアコーディオンを弾いた。





今日は休日。




教会で祈りを捧げた人々が家路に着く昼下がり。




太陽の恵みに微笑み返す木々たち、その木漏れ日に包まれる午後。






ピエロはいつもの噴水の前で一礼して、演奏を始めた。



休日ともなると広場もにぎわい、噴水の周囲もギャラリーで取り囲まれた。




アコーディオンが空気をいっぱいに含んで扇形に左右へ広がると、心地よい旋律にあたりは酔いしれる。






こんなに優しい音楽が、ここにある。







ピエロは自らが鳴らす音に身をゆだね、弾き続ける。



するとどうだろう。






どこからかまた別の音が重なり合ってくる。



恋しい、愛しい音・・・・・・・・・




ヴァイオリンの音、





あの人の音が。




かっちりとした白のシャツに黒いパンツ。




弓と弦がこすれあい生まれる振動が心を揺らす。







メンデルスゾーン《ロンドカプリチオーソ;op.14》






いつしか二人の空気が広場全体を巻き込む。





「真一君!!!?」




ピエロが広場で初めて放った単語は、大好きなあの人の名だった。





「どうして・・・・・・・・」


「いいから弾けって。」






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> 9・novembre・2006


> ピエロは言いました。

> "これは償いなんだ。"と。

> 待ち続けることで・・・・・・・・救われる想いがあるなら。

> 叶わなくても、想いだけは永遠に生き続けるんですね。

> でも、のだめは届けたいデス。

> きっと、いえ、絶対待っています。

> あなたの大切な、あの人が。

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演奏が終わり辺りを見回すと、100人を超える観客が二人に熱い視線を注いでいた。




ぱちぱちぱち・・・・・・・





小さく響く拍手の音。





一人の老婆が皺の寄った手を叩く。





「素敵ね・・・・・・・・」



ピエロ、いや、のだめはその温かい一言にはにかみながら、ちらっと真一の横顔を覗いた。


真一も所在無さげに冷や汗らしきものを額に浮かばせながら、のだめの方を見た。




老婆は拍手の手を止めずにうつむき、その先に一粒の涙を落とした。





「そう・・・・・・・・・・あの人、もういないのね。」


「え?!!」


「はっ??」






彼女はずっと待っていた。





この広場で、この噴水の後ろで。






長い長い月日、彼の奏でる旋律を聴いていた。






「ほら・・・・・・・・届いていたじゃないデスか。」



のだめの大きな瞳にも涙がこみ上げた。



「・・・・・・・・・・・・戻ってきてください。ピエロさんを待っている人がここにいます。」



真一は黙ってのだめの頭を手のひらで撫でた。







愛のプレリュード。



最終章は存在しない。




終わらない物語。
















「そういえば真一君、あの時なんで来てくれたんですか?」


「さあな。」


「『さあな。』じゃ分かりまセン。」


「なんでだろうな。」


「余計分かりまセン・・・・・・・・・・・でも、うれしかったデス。」





理由なんて、根拠なんてなんでもいい。







ただ、守りたいものがあるだけ。







                                        fine
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まとまりなんてありません。いつものことだと笑ってください・・・・・・・・・ふぅ。
広場で演奏する二人が描きたかったのです。


Ricco
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by poppo1120 | 2006-04-23 21:48 | SS
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