Beat<前編>

心温まるお話が書きたい今日このごろです。


『Beat<前編>』を、どうぞ~@





次に会うためのサヨナラは淋しくない。



哀しくない。





会いたくて、会いたくて、会いたくて・・・・・・・・・





生きていることの意味は、ただそれだけでいい。







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> 6・novembre・2006


> ピエロは言いました。

> "届くまで弾き続けるんだよ。"

> 素敵だと思いました。

> きっと届いてるはずデス。

> おじいさんのアコーディオン、古くて色も褪せているけど

> その音色は天下一品。

> どうしたらそんな音が出せるのかと不思議でしょうがないです。

> いつか、のだめにもそんなメロディーが奏でられるでしょうか?

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「あれ?のだめいないネ?」


3ユーロの借金の取立てに来たユンロンは、真一に問いかけた。


「ああ、あいつ最近帰りが遅いんだよ。」

「とうとうのだめも浮気・・・・・・」

「はぁ?」


遅いのは構わないけど、どこほっつき歩いてるんだか分からない。

帰ってきても、疲れて動けなくなるまでピアノを弾いたら眠ってしまう。




まぁ、それだけならいつものあいつとなんら変わりない。




ただ、あいつの音が何かあいつ自身の感情的な部分を煮えたぎらせているような、そんな音に聴こえる。



湧き上がって、溢れては零れ・・・・・



おまえは一体、何処に行きたがっている?



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「おや、今日も来たのかい?」


日中、子ども連れや恋人達でにぎわう広場も、夕暮れが過ぎる頃には閑散としていた。



「おじいさんの音・・・・・・・・・ほんとに気持ちいいデス。」


のだめは学校帰り、この広場で一人の大道芸人に会うのが日課になっている。


歳は60、70代といったところだろうが、はっきりしたことは定かではない。

ただ、毎日欠かさずこの噴水の前でアコーディオンを奏で続けているということは確かだった。



雨も、風も、雷も関係ない。



毎日、毎日、ピエロは弾き続ける。



この身を柔らかく撫でる旋律は、噴水の水しぶきと一体になって空気の中に飛散する。




一滴一滴に音符を包み込んで。




大地に降り注いでは、弾けて広がる旋律。





「何か弾いてください。」


「せっかくの常連さんのリクエストだ、とっておきを弾いてあげるよ。」




J.イバノビッチ《ドナウ河のさざなみ》




のだめは広場のど真ん中でおとなしく体育座りしながら演奏に耳を傾ける。


丸まった背中が子どものようで愛くるしい。




眼差しは一転に定まって微動だにしない。




まっすぐ・・・・・・・見つめる先には大好きな音があった。



瞳に奥に、憧れだけを映して。





「ピエロさん、毎日一人で淋しくないですか?」




今日に別れを告げる夕日を背に、ピエロはしばし考え、そして答えた。




「淋しくなんか無いよ。待っている人がいるからね。」


「待っている・・・・・・・・」



誰を待っているのか。


待っているのはとても苦しい。




狂おしい。





「40年も前の約束なんだ。約束ってのは守るためにあるから。」


「恋人・・・・・・・・ですネ?」




ピエロはのだめの質問に答えないかわりに、演奏を続けた。





誰も立ち止まらなくても、その聴覚にはしっかりと響く音色。


愛のメッセージ。




待っている、待っている。


君は来ても来なくてもいい。



ただ、待ち続けたい。




「明日も聴きに来ていいデスか?」


「もちろんだよ。夕方は冷えるから厚着してくるんだね。」


「はい!!」



日が暮れるのは明日への希望。




闇を畏れては辿り着けない場所がある。




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「え?!どういうことですか?」


次の日、ピエロは広場にいなかった。


広場の清掃員がのだめに告げる。



「あの爺さん、長いこと病んでいたんだよ。毎日休まず弾いていたから、今度こそもう来られないかもしれないな。」



愕然とする事実。



「待ってるって言ったのに・・・・・・・・」



のだめは朱色に染まる噴水を見上げて呟く。



この日はもうアパルトマンへ帰るしかなかった。






「今日は早いんだな。」


ドアが閉まる音を聞いた真一は、キッチンに立ったまま振り向かずに言った。


のだめのブーツのヒールがカツカツッとフローリングを鳴らして近づいてくる。




真一がようやく振り向いたころには、のだめはその背中にしがみついていた。



「おいおい。どうした?」


「・・・・・・・・・・なんでもないデス。」


「なんでもなくないだろ。」



真一の黒いエプロンは甘い香りがした。


今晩はシチューだろうか。





「真一君。」



ピアノ椅子に座って窓の外を覗いてみる。



夜空のカーテン、一つの星が流れた。




「のだめと約束しませんか?」


「約束?なんの?」




書斎からスコアを何冊か取り出しながら、真一は聞く。



「何でもいいんデスけど・・・・・・・」


「何でもいい約束って何だよ。」



真一は笑いをこらえながら、デスクにスコアを放り投げた。


のだめはもう一度夜空を見上げた。



もう星たちも眠りにつく頃だろうか。




「・・・・・・のだめが消えたら探してください。」


「何?おまえ消えるの?」


「いえ、消えませんけど。もしもの話です。」


「もしも、か。」



想像もつかない、と真一は思う。



しかし、彼女にいない世界に自分がいる意味が見つけられるだろうか、とも思う。





「・・・・・・わかったよ。」


「約束ですヨ?」


「わかったって。」



小指を突き出すのだめの額にキスをして、目の前に差し出された小指を手にとってまたキスした。








守るよ。









真一なりの返事だった。











"ねぇ千秋君、コンコルド広場のうわさ知ってる?"


黒木から電話が来たのは、それから数日後だった。





                                       続く



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ずいぶん前から練っていた話なのですが、書き始めたら方向性が見えなくなってお蔵入り寸前でした。後編で上手くまとまればいいな。


Ricco
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by poppo1120 | 2006-04-20 22:17 | SS
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