月の影~1.迷宮~

こんばんわ。


なんだか長くなりそう(また?)なので、短めに区切って連載にすることにしました。

うざったいとは思いますが、3~4話の予定なので(予定?!)気長に読んでくださると嬉しいです。


それでは、「月の影~1.迷宮~」はじまります。




1.迷宮




「なんで?シュトレーゼマンは?」


「マエストロは他の仕事でベルリンに行ってもらいます。」


エリーゼの口調は特に普段と変わりないが、態度はいつもよりふてぶてしい感じがした。



「音楽祭は今年で10周年という節目の年なのよ。ニナがチアキなら・・・って快く了解してくれたんだから、文句言わないで長野に行くことね。」

「なんでわざわざ・・・」

「チアキ、パリに来て一度も日本に帰ってないんだろ?里帰りだと思ってのんびりしてくればいい。」


オリバーは真一に淹れたてのコーヒーを手渡して、その真っ黒なサングラスの奥から窓の外の風景に目をやった。





日本、か。



のんびりといっても仕事だろ。





せっかくのバカンスも、あの蒸し暑い日本で蟻のように働かされては気分転換ともいかないだろう。










「おまえ、どうする?」



ソファーでピアノの譜面にかじりついているのだめは、真一の問いに


「ニナ・ルッツ・・・・・・のだめは真一君の妻兼マネージャー?」


と、質問を返した。




「いや、長野にはオリバーが一緒に来るからマネージャーはいらない。」


「それじゃ、のだめは遊んでていいんですかネ?」


「おまえはニナのアシスタントだ。」


「えっ!?アシスタントって・・・なんでのだめが・・・。」








"まったく最悪の学生だったわ。



あきらめなさい。"









やっぱりだめなのか?





あの時、未消化だったままの思い。







のだめのピアノを、音を、自分以外の誰かにはっきりと否定されたことに素直にショックを受けた。






「・・・4年間、あれからおまえは一体何をしてきたんだ?」


「なにって、・・・・・・ずっと、ピアノを弾いていましたヨ?」






こいつのピアノには情熱がないとニナは言った。






ただ、見返してやりたいだけかもしれない。



いや、・・・再び熱を取り戻して燃え上がった、のだめのピアノに対する感情を確かめたいだけなのか?






「行こう。とにかく。」


「真一君、のだめがいないと飛行機に乗れないだけじゃないんデスか?」


「うるせー。黙ってついて来い。」








いいから来いって。






証明してみせろよ。












おまえの情熱を。






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タクシーでシャルル・ド・ゴール空港まで30分。


オリバーは明日パリを発つらしい。




出国審査を終えてゲート内で両替する。




久々に見た日本円にのだめが感動する。






いいよな、小さなことでも感動できるヤツは。







離陸の瞬間、

まるで高速エレベーターを上り下りしているような重力の違和感は、やっぱり好きにはなれない。




「お腹空きました~」



機内食を平らげるのだめを横目に、イヤホンを装着して瞑想する。





なるべくこの恐怖が紛れるように。





音楽祭最終日の演奏、もうスコアはこの手にある。


ニナ・ルッツ音楽祭10周年の記念すべき公演は、ニナ自身がピアノ協奏曲のソリストとなる。







12時間35分の旅は、大半が瞑想で終わった。









東京は、夜。





地味なネオンに、滑走路だけがきらきらと照らされている。





成田に到着しスーツケースを受け取ると、再びタクシーに乗り込む。





この夜は空港近辺にホテルを予約した。





とてもじゃないが、長野まで一気に行く気にはなれない。




タクシーの後部座席、旅の疲れで眠りこけるのだめが肩にもたれる。




この重さが妙に安心できるのは何故だろう。


いつも思う。





走行するタクシーの振動に王女が目覚めてしまわないよう、腰をぐっと支えてみる。




耳元に微かに聴こえる息遣いは、やわらかで甘い。









携帯に電源を入れてメールをチェックする。





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From;エリーゼ

Sub;念には念を


再三言っとくけど、粗相の

ないように。

事務所の命運が懸かって

るのを忘れないで。



     End
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ため息がこぼれる。


音楽祭、良い思い出はほとんど無いに等しい。





その前に、俺への信用はそれほど脆いものなのか?







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From;峰

Sub;宣伝

よっ!!

帰ってきて早々だろうけど、

R☆Sオケの公演3日後の

土曜日だから。

チケットは友情価格にして

やるから絶対来いよな!


      End

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未読メールはあと何通か残っていたが、明日読むことにした。




R☆Sオケ・・・・・・土曜日って、音楽祭の公演は次の日曜日なのに。







ま、行かなければいけない義理はないし。





と一瞬考えたが、その感情とは裏腹に、




なにがなんでも行きたい、




まるで、初恋の相手に再会しに行くような気恥ずかしさと熱情がこみ上げる自分の心を、真一は知っていた。





人はいつでも相反する、矛盾した感情に戸惑いながら生きている。




何もかもシンプルで分かりやすければ、どんなに楽だろう。




悩みも、迷いも、苦しみも、痛みも忘れられる毎日。





でも、


そんな人生は退屈だ。






感情という荒波と理性という強風に舵取りがきかない船旅。




心という真っ白な帆を張って、すべてを受け止める力を欲して、






人は旅を続けるのかもしれない。








俺は旅の出発前に、忘れてきたものがたくさんある。





それが何かは漠然としすぎていてわからないが、そんな気がした。








「ほら、着いたぞ。」


「はう・・・・・・」





俺の旅は回り道、迷い道ばかりでどこが出口かなんて見当すらつかない。






地図なんて、持ってない。






でも、そんな人生でも、楽しんでみせる。








夜の闇はすぐに太陽を呼ぶけれど、今夜だけは気長に明日を待って欲しい。





少なくとも、この旅の疲れを癒すためには。





                             続く




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ニナ・ルッツ、懐かしいですね。

連載となってしまいましたが、どうか見捨てずにお付き合いください!




Ricco
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by poppo1120 | 2006-03-25 19:07 | SS連載
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