Sympathy〈前編〉

そういえば、オアシスではターニャがまだ登場していませんでした。

今回のお話は、設定が本誌の進行に近いので、コミックス派のかたは注意してくださいね。



無駄に長いので前編・後編に分けさせていただきました。すみません・・・・・・・てへ。

それでは「Simpathy<前編>」始まります。





「どんなタイプが好きなのかしら…」


ローズヒップ・ティーの湯気が充満する部屋は、パリの公園のように爽やかで芳しい香りがした。





「なんの話ですか?」


「…ヤスに決まってるじゃない。」



決まってる、と言われてもいまいちぴんとこないが、とりあえずターニャの話に合わせる。






「ハーブティーより煎茶が好きそうデスけど。」


「そうじゃなくて!!…あんたねぇ。」




適当に答えたらはずしてしまった。




ターニャのため息で湯気がカップの上でふわりと広がる。






呆れ顔の友人の表情からようやく真意を汲み取ったのだめは、



「黒木君のタイプ…見当もつきません。」



と答えた。








「・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・・なんだかタイミングが悪いところに来たみたいだな。」





真一の部屋に黒木が訪ねて来たので、二人でターニャの部屋までのだめを呼びに行くところだった。





ドア一枚隔てたところで、今まさに話題の主人公の二人は硬直する。






『見当もつきません。』って。



そりゃ、君には分からないだろうけど。






それにしても、二人とも声が大きいし。






ターニャの質問よりのだめの一言に気が気ではない黒木は、ドアの前でうつむいてぐるぐると考え込んでしまった。





君は僕から奪っていったのに。




視線も、


理性も、


平穏な毎日も、



心さえも。





どうして分からないと言えるの?







「じゃあ、先輩はのだめのどこが好みなんでしょうかネ?」


「さぁ~・・・・・・・それこそ見当もつかないわよ。」







『見当もつかないわよ。』って・・・・・・・・。




そりゃ、俺にも見当がつかないから仕方が無い。





ドアをノックしようとしたはずが、二人のとんだ会話に居合わせて立ち聞きしなければならなくなった真一は、胸中、そう呟いた。







自分でも分からないのに、他人に理解できるなんてことがあるのだろうか?






結局二人はばつが悪くて女性陣には声をかけず部屋に戻ったが、いささか気まずい雰囲気に気が滅入っていた。





「あの、お茶でも飲む?」


いつまでもうつむいてどすーんとした空気を漂わせる黒木に、真一は声をかけた。



「・・・・・・そうだね。じゃ、遠慮なく。」


ようやく顔を上げた黒木の表情は穏やかではなかったが、とりあえずさっきの会話は聞かなかったことにしておこうと真一は思った。





そういえば、自分にも好みが合ったはずなのに。





髪は細くて長い方がいいとか、



肌は白くて柔らかいのがいいとか、



うなじは綺麗なのに越したことはないとか、



瞳の大きさは関係ないけどまつげは長い方がいいとか、



女らしくて色気のあるほうがいいとか、








音楽に生きている人間がいいとか。











「私がチアキとの相性を占ってあげようか?!」

「占う?!ターニャが?」

「最近タロットにハマってるのよ~サンジェルマンの商店街の路地裏に、すごく良く当たる占いの館があって毎日通ってるわ!!」

「け、結構デス!!のだめと真一君の相性はぴったしカンカン、相性200%に決まってますから!!」





そうは答えたが、この瞬間、のだめの脳裏に『サンジェルマン占いの館』という刻印が焼きついたのは確かだった。






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買い物・・・めんどくさいな。





早々と仕事が終わり、夕方には家路につくことができそうだ。


でも、部屋の冷蔵庫・・・・・・しばらく放置していたからきっと、口にできる食材は残っていないだろう。





疲れた。



風呂入って、寝たい。





20歳超えると毎日時間が過ぎるのが早いと言うけれど、年のせいかそうじゃないかはともかくとして、本当に時の流れは速いものだ。



ついこの間まで着ていたコートもクリーニングに出してしまったし、毎日見ているはずの街路樹もすっかり新緑に衣替えした。




眠っていたはずの生き物達がのそりと顔を出す春。




今日は春一番なのか風がものすごく強くて、せっかく寝癖を直した髪も好き勝手にはねてしまった。





風が運んでくる春の便り。






ぼーっとあたりの景色を眺めていたら、いつも寄るマーケットをいつのまにか通り過ぎ、買い物し損ねていたことにようやく気がつく。






・・・・・・・・・・・今夜は外食にしよう。


どうせ作るのも億劫だし。





今夜はどこへ食べに行こうと思いを巡らせて歩いていると、知らぬ間に商店街の裏道に入り込んでしまった。





まさか、迷ったのか?




ぼーっと歩いていたことは認めるが、それにしてもここはどこだ。







煉瓦の建物とコンクリートの建物がパッチワークのようにいびつに並び、小道は建物の影で薄暗い。






途方に暮れて、もと来たであろう道のりを思い出そうとするが、所詮、人間考え事としている時には他の事柄に対して失念してしまうことは良くある話だ。






きょろきょろ辺りを見回しながら歩いていると、真一は何らかの気配を感じて後ろを振り向いた。






一人の女。




こんなヤツ、さっきまでいたか?





紫のショールを被って、口元はマスクで覆われていかにも怪しい。






「あなた、運命を信じる?」


「・・・・・・・はぁ?」




急な女の質問に、素直に驚いてみせる。






運命、か。




信じるも何も、考えたことすらないことに今気づいたし。





「私は信じないわ。だから占い師になったのよ。」


「はぁ・・・・・・・・・・。」




突拍子も無い上に筋が通らない女の話にますます不信感が募るが、何故だか奇妙な好奇心をそそる。







この世に生まれて、




とりあえず生きていくための生理的欲求を満たして、






音楽と命を共有して、







たまに恋という寄り道をしてみたり。





これが自分の生きてきた道。






そのうち"運命"と呼べるものがあるとするなら、どれに当たるのだろう。







「21までの数字から一つ、好きな数字を選んで。」





ほんと、なんだよこいつ。




「え、今?俺道に迷ってる途中なんですけど。」


「じゃあ尚更私の話を聴いていったほうがいいわ。」





訳が分からないが、とにかく早く家に帰るために女の指示に従うことにする。




「・・・・・・・じゃ、3で。」




これは・・・・・・・・タロットか?




女がカードをきったり混ぜたりするその手さばきが見事で一瞬見入る。





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  愚者
The Fool
   正
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なんだよ、愚者?




「あなたの大切な人は・・・夢見がちで、悩む前に動ける身軽さがるわ。良い意味で思い込みの激しさが彼女の駆動力になっているのね。でも・・・」






おいおい、占いって・・・・・・俺のことじゃないのか?






それにしても妙に説得力ある女の物言いに、自然と生唾を飲んだ自分がいた。



「・・・でも?」


「大切にしすぎるのは良くないわ。彼女は本能を原動力に生きている人間だから、その本能的な部分を縛り付けてしまうと彼女の本能が暴れだして、手がつけられなくなる。」





本能。





そういえば自分にもそんなものがあった気がするが、いつの間に感じなくなってしまったのだろう。







「・・・・・・・俺は、どうすればいいんですか。」



自分でも思いがけない質問に驚きながら、マスクで覆われたわずかな隙間から見える占い師の瞳の中を覗き込んでみる。




「その答えは、あなた自身が導き出した方がいいわ。」






聞いた意味無かったか?







「・・・・・・一つだけ、言えることがある。」







もったいぶる必要がどこにある・・・・・・・





「一つ?」




「あなたは逃げないで待っていてあげること。」







なんだ、



そんなことか。






今更、逃げられるわけないだろ。








今度目を離したら、本当に消えてしまいそうな二人の儚い未来。








「どうでもいいですけど、道教えてください。」



真一は結局、占い師に道案内にさせるのに成功した。








           後編に続く

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いままでのSSのなかで、もっともまとまりの無い話になりそうな予感。
「3」は、「めぐみ」の「み=3」ということで。(超強引)
興味がございましたら、是非後編をお読みくださいね。(営業スマイル)

Ricco
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by poppo1120 | 2006-03-20 22:45 | SS
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