Honey

小さな幸せ、一緒にみつけませんか?

「Honey」のはじまりはじまり。






何気ない愛しさに溢れる日々。


二人の呼吸のリズムが重なる。




同じ時間を生きている。




「おい。早くしろ。」

「もー・・・真一君。焦ってばかりいると足元すくわれますヨ?」

「置いてくぞ。」

「ちょ、ちょ・・・ちょっと~!!見捨てないでください。」



同じ地球に生まれた、まったく違う二つの遺伝子。




「脇のチャック半分開いてる。」

「ぎゃぼっ?!サ、サービスですよ。お客様感謝デー?」

「本気で置いていくぞ。」

「じゃあ、さっきのは本気じゃなかったんですネ?」



歩む歩幅は違うけど、互いのスピードが心地よい。

ゆっくり、鼓動に合わせて。

たまに急ぎ足で。





パリ

デシャン・オケ。




ロランからチケットが届いたのは2週間くらい前だっただろうか。

ウィルトールの練習日とデシャンの定期公演が重なり、代わりにチケットを譲ってくれた。


ジャンがデシャン・オケの常任指揮者になってから半年が過ぎた。

予想通りデシャン、いや、ジャンの評判は上々で、若い女性層の会員も増えているらしい。


会場は満員御礼で、すかすかで室温が肌寒くさえ感じるマルレの定期公演とはまるで違う。




人をうらやんでもしょうがない。


羨望や嫉妬からは何も生まれないと思う。




それでも、心の底に渦巻くどす黒い感情に溺れそうになるのは何故だろう。





指揮台へ乗ったジャンは、まるで天まで手が届く丘に登ったかのようなすがすがしさと、喜びに満ちている。



コンクールからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。



ジャンは、確実に天までの階段を昇っている。




ジャンの両手が滑らかに、オケの音色を導いていく。



水の中を泳ぐ魚のように自由で、


青空を飛ぶ鳥のように軽やかに。




隣で真剣な眼差しののだめ。


その表情は笑みを含んでいるようにも見えた。





楽しいか?




真一もそんなのだめを見てうれしく、しかしほんの少し淋しそうに微笑んだ。







俺のこの手は、神の手なんかじゃない。




真一は、最近つくづくそう痛感する。

神の手どころか、タクトを振っている自分の手が、まるで他人のもののように思い通りに動かないとさえ感じることが度々ある。





はるかなる高み、そんなとこへ届くはずも無い。


今はただ、天から吊り下げられたクモの糸を逃がさないように、しがみつくのに必死な状態だった。


糸が切れてしまわないように、慎重に。





「楽屋まであいさつに行きませんか?」

「・・・いや、俺はいい。」

「まあまあ。そんなこと言わずに。」


のだめの手につれられて楽屋まで足を運ぶと、タオルで汗をぬぐうジャンが待っていた。



「やあ。来てくれると思ってたよ。」


表情は疲れを覗かせるものの、自信と高揚感に溢れている。



「お疲れ。」

「花くらい持ってきてくれてもいいと思うけど?紳士のマナーとして。」

「あいにく、来る途中花屋を見かけなかったんで。」



挑戦的なジャンの視線を軽くあしらって、備え付けのソファーへ腰掛ける。



「あれ?そういえばゆうこさんの姿を見かけませんが・・・」


素朴な疑問に、のだめは首をかしげながらジャンを見る。




聞いてはいけない質問だったのだろう。



ジャンのミネラルウォーターのペットボトルを持つ手が止まり、表情が一気に曇った。




「・・・・・・喧嘩中なんだ。彼女、実家に帰っちゃって。」



「ぶっ・・・」



真一は思わず吹き出した。



「し、失礼じゃないか!!」

「違う違う!!」



何か違うのか自分でも分からないが、とにかく笑えた。



「ジャンがケンカ・・・ぷぷっ☆」

「君まで・・・・・・」

「・・・あ、えーっと。日本では『ケンカするほど仲がいい。』ということわざもありますし、ネ?」 




あれはことわざなのか?



真一は考えてみたが、すぐに考えるのをやめた。



「・・・・・・君も人間なんだな。」


「・・・当たり前だろ?いまさら何を言ってるんだい。」






さっきまでくすぶっていた気持ちが嘘のように晴れて、真一から安堵のため息が漏れた。





こんなにありふれた日常に答えが散らばっている。


空ばかり見上げて、大切なカケラを見失ってばかりだったのかもしれない。







翼なんてないから、空にあこがれる。








帰り道、手を繋いで歩いた。



「あったかい。」




ふふっと笑うのだめの横顔を眺めて、真一は妙な満足感を味わった気がした。




こんなに毎日が愛しいのに、他に何が欲しいというのか。







一人にやける真一を見て、のだめはまた笑った。




小さな幸せが連鎖して、積もり積もって大きな幸せになる。




こんな簡単な方程式が、時々解けなくなる。





そんな時、あなたならどうしますか?





fine
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素朴だけどハッピーがぎっしり詰まったお話を書いてみたいものです。

ジャン、お疲れ・・・


Ricco
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by poppo1120 | 2006-03-15 22:06 | SS
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