Breath


リクエストがあったので書いてみました。

うちの峰と清良は結婚しています。(勝手に)


この「Breath」は以前書いた「Sign」の続編というか完結版ですかね?「Breath」だけ読んでも内容が分かるようになっています。
「アネモネ」ともちょっぴりリンクしてるかな?

それでは、「Breath」をどうぞ。




「おい。これってどのくらい煮ればいいんだ?」



離乳食なんて言われても、はいそうですか、とすぐに作れるはずが無い。



「舌でつぶせる固さで大丈夫よ。」



舌でつぶせる固さ・・・・・・・。

簡単そうに言うけど、わかんねぇし。


鍋を片手に途方に暮れる真一に、清良は笑いを押し殺していた。



峰夫婦は来仏して2日目、真一のアパルトマンへ訪ねてきた。


「ね、オムツ交換したいんだけど、どこでやればいい?」


オムツ・・・・・・・・。

飯作っている時にその話か。


「どこでもいいよ、もう。」

「千秋君。怒ってる?」

「怒ってない。」


明らかに機嫌が悪いが、半ば諦めたような顔をして答えるから清良はさらに面白がった。


「ハルキちゃん、真一おじさん怖いでちゅね~」

「おじさんじゃねぇーー-!!!!」


二人のやり取りが通じているのか、いないのか、春姫の微笑みは絶えなかった。

きゃっきゃと笑う赤ん坊に、真一の鬼気もそがれる。




「・・・幸せそうだな。」

「あはは。そんな野暮なこと言うんだ。千秋君でも。」




何が悪い。




春姫を抱く清良の腕が左右に揺れ、まるでゆりかごのように見える。

ゆりかごに揺られまどろむ赤ん坊は、さしずめ花びらの上で一休みする妖精のように可愛らしく、そして小さかった。



「私、春姫に出会えてよかった。」


すっかり瞼を閉じた妖精の寝顔を見つめながら、清良は呟く。



「この子に出会えて、私、初めて自分がこの世に生まれてきた意味を知った気がするの。」




意味。




真一にとって、それはあるようで、無いのと同じであるように感じられた。




「千秋君、・・・するものじゃなくて、おちるものなのよ。」

「え?」




「すぐに分かるわ。と言うより、気づかない振りしているだけなのかしら。」



真一は清良の言葉に、ますます訳が分からなくなるが、聞き流すことにした。




落ちる。


どこへ?



堕ちる。


何に?



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二人の結婚式は夏だった。



トスカーナの大地は灼熱の太陽に焼かれ、熱気を帯びていた。




三次会が終わる前に、真一はホテルの部屋へ戻った。


軽く頭痛がして、部屋に戻るなりベッドへダイブする。



結婚なんて。

縛ったり縛られたり、そんな契約に何の価値がある。



真一は大の字に突っ伏したまま、がんがんと響く頭で思考を巡らせてみる。




幸せな家庭なんて、知らない。




そんなことをぐるぐると考えているうちに、目の前の視界が陰った。



「真一君?」


のだめはうつ伏せで微塵も動かない真一を、ベッドの脇から心配そうに見下ろしていた。



「大丈夫ですか?」


のだめの問いに、



だいじょうぶじゃない。


と、真一が唇だけで答えた。



ベッドに腰掛け、自分の頭を優しく撫でるその手首を強く掴んで、抱きしめた。



真一の首筋に顔を寄せたのだめは、


「真一君、タバコのにおい・・・」


と、一言だけ漏らした。





熱帯魚。



シーツの上を、ただ本能のままに泳ぐ。





人間なんて、高ぶる感情を抑圧の鎖で締め上げて、いつしかその欲望さえ飼いならす。

欲望を理性というオブラートで包み隠して。


快楽が天まで昇ったかと思えば、

気づいた瞬間、現実という奈落へ突き落とされる。



それなのに、そのはずなのに、




止まらない衝動を、確かにこの体が感じている。




強く強く抱きしめても、

まるで陽炎のように実体の無いこいつは、ただすり抜けていくだけ。




「・・・・・・清良さん、素敵でしたネ。」

「ああ。」

「のだめ、ブーケ取り損ねました。」

「花なんて、いくらでも買ってやるよ。」


また的外れなことばっかり、とのだめは思ったが言わなかった。




言って、どうにかなるのだろうか。



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「ま、運命かな。太陽が東から昇って西へ沈むように。」



龍はのだめに商店街を案内され、二人でその帰りに教会へ寄った。



「運命・・・・・・あるんデスかね?やっぱりそういうの。」


平日の教会は閑散としていて、二人の靴音だけが高い天井まで響いていた。


「ま、あっても無くても、それを実感するかしないかの差だろ。」

「はぁ・・・なんだか難しいですけど。」

「のだめにはまだ早いか?」

「がぼん。何ですか、峰くんが上からものを言うとものすごく腹が立ちマス!」



はっはっはっは、と龍が豪快に笑い転げるから、コンクリートの壁に声が反響してこだました。



「幸せだぜ、俺。」



龍が照れもせず、のだめに微笑みかける。



「知ってますヨ。十分すぎるくらい。」




二人は祭壇の前に跪き、両手を組み合わせた。


「のだめ、何祈るんだよ?」

「峰くんに教える義理はありまセン。」


ちぇ、と言いながらも、龍は気にせず自分と自分の家族の分の祈りを神に捧げる。



願い事は、他人に言わないほうが叶うものなんデスよ。



のだめは心の中で、真剣に祈る峰の横顔に語りかけた。




「さ、ハルキちゃんが待ってますヨ。帰りましょう。」

「そうだな。」







落ちていけ、どこへでも。



堕ちてしまえ、どこまでも。






それが、神の意思に背くものだとしても。




                                             fine
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「Sign」は、峰夫妻結婚式の三次会の場面で終わっているんですよね~
その後は、Riccoの中でなんとなくストーリーがこんな風に続くだろうと漠然と考えてはいました。

「Breath」は時間的経過が把握しにくいお話なので、分かりづらかったかですかね?ま、Riccoの書くものは大抵そうなんですけど。はい、申し訳ありません・・・・・・・・・(汗;)

Ricco
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by poppo1120 | 2006-03-06 16:57 | SS
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